2022年3月27日日曜日

蜆という季題

 蜆は春の季題ですが、どんな本意を持つものなのでしょう。先日の本部吟行で姫路城の好古園に行きました。屋敷の前を走る側溝を覗くと、巻貝に混じって、あまり大きくない蜆がおりました。全国各地で見られ、宍道湖のような真水と潮水が混じるところに棲む大和蜆、普通の真水の河川に棲む真蜆、琵琶湖に棲む瀬田蜆の3種類があります。この内、瀬田蜆が最も大きく、春が旬であることから、蜆は春の季題になっていると歳時記にあります。

蜆料理と言えば味噌汁が一般的ですが、蜆汁といえばこの味噌汁のことです。蜆にはこの他、蜆採、蜆掻、蜆舟、蜆売等の傍題があります。

蜆舟に載って湖に乗り出し、鋤簾という熊手に金網を張ったような道具を使って湖底を掻いて引き上げ、蜆を採取します。船と言ってもいわゆる田舟のような小さなもので、高速で走り回れるような漁船ではありません。大抵は手漕ぎか、小さな船外機を付けた舟です。

では、蜆という季題をどのように遣えば良いでしょう。私は早春の湖の景を描いてみようと思った時に、蜆を使います。

     未だ白き比良の峰々蜆舟   伸一路

比良連峰が残雪の姿を見せる頃の季節感が出せたかと思います。連峰からは未だ冷たい風が湖を渡って来るものの、どこかしら春めいた気配を感じる。それを読者に語ってくれる季の物の一つが蜆舟なのです。

蜆舟を見て詠むのではありません。琵琶湖の早春の景を読者に伝えてみたい、これがこの句を詠もうと思った発端です。学生の頃に近江八幡の近くの琵琶湖畔で見かけた光景を思い出し、蜆舟を浮かべてみたのです。それを五七五に置いてみて、この句になったのです。

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