先日の句会で、こんな句が出されました。
寒鯉や天を見つめて動かざる
寒鯉や青藻一糸をまとひたる
「や」という助詞の使い方について考えてみましょう。「や」という助詞は、係(かかり)助詞と間投(かんとう)助詞とに分けられます。係助詞は、いわゆる係り結びの法則という働きをするもので、「空よりや降りけん、土よりやわきけん」という場合の「や」です。間投助詞の「や」は感動や呼びかけを表すもので、「古池や蛙飛び込む水の音」の「や」です。
それでは、掲句の「や」はどちらの意味で使われているでしょう。言うまでもなく、間投助詞であり、寒鯉や、と感動を表現しています。しかし、中七・下五の内容は、明らかに寒鯉の姿、状況を表現しています。となると、掲句は鯉の状況の説明に過ぎません。説明ならば、本来の姿は、
寒鯉が天を見つめて動かざる
寒鯉が青藻一糸をまとひたる
であるはずです。となると、寒鯉が主語であることをあらわす「が」と、感動を表す「や」とを取り違えた、ということです。正しくは「が」なのです。
ところが、「が」という助詞は鼻濁音といって、鼻にかかる濁った音であり避けたほうが良いと言われますので、同じ主語を表す助詞である「の」を使うことが一般的です。従って、掲句は次のよう詠むのが定石です。「が」より「の」の方が、耳に入る音が柔らかいからです。
寒鯉の天を見つめて動かざる
寒鯉の青藻一糸をまとひたる
上五を「や」で切ることは極一般的ですが、その際、「や」で良いのか、「や」ではなく「の」なのか、と自問自答してみて下さい。
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