ある読者の方からメールを通じて、「寒施行という冬の季題があるが、庭に来る小鳥の為に、オレンジを枝に差してやるのも寒施行と考えて良いか」という質問が来ました。寒施行とは、ホトトギス新歳時記によれば、「寒中、狐や狸などの餌が乏しくなったころ、小豆飯、油揚げなどを、野道、田の畦などに置いて施すことをいう。狐狸の穴と思われるところに置くのを穴施行という」とあります。
確かに、広い意味で捉えれば、オレンジを枝に差してやるのも施行の一つかもしれません。言ってみれば「枝施行」です。しかし、寒施行はあくまでも狐狸などの為に施すものと考えるべきだと私は思います。講談社版「日本大歳時記」を読みますと、ホトトギス新歳時記に載ってない部分が書いてあります。
曰く「供えた食餌が無くなっておれば五穀豊穣だと信ぜられ、福を報われると言った。提灯を灯して暗い田や山の道を子供を交え人々が誘い合って夜更かしをして目当てのところを歩いて廻ったものである。京阪地方を始め、本邦いたるところで行われる。」とあります。要するに、農村の行事であり、それも吉凶を占う呪術的な要素を持つ行事なのです。
オレンジを枝に差すことと、五穀豊穣を占うこととの関連性や如何に。これでお分かり頂けた事と思います。寒施行とは、単に狐狸を飢えから救うという事ではないのです。近くの神社の森に狸が居るので、飢えるとかわいそうだから餌を運んでやる。これも寒施行では有りません。
たとえば「絵踏」という季題のように、現在では行われていない行事も兼題として課されることがあります。見たことがないから詠めません、では俳人として情けない。情景を思い浮かべて、例えば自分ならどうする、と考えれば詠める筈です。寒施行でもそうです。物語の中で、寒施行をする自分を描いてみたらどうでしょう。穴の前に置いておいた油揚げが無くなっていたら、あなたならどう思いますか。その感動を詠んでみましょう。
野施行や石に置たる海の幸 富安風生
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