ある俳句講座にて、こんな句がありました。
薄氷や母の手術を待つ孤独
作者のお母さんは90歳になられますが、この程大きな手術を受けられました。若い人ならいざ知らず、高齢者の手術は大変危険です。体力が落ちているので何が起こるか分からず、回復にも時間が掛かります。この先を考えれば、あえて手術をしなくても、という選択もありますが、お母さんの強い希望で、手術を受けることになったそうです。
さて手術当日、控室で手術の終了を待つ作者。ひたすら待つ時間は長い。先日の私の手術は1時間半で終わりましたが、大きな手術ですと何時間も掛かります。その思いを詠まれたのがこの句。
お気持ちはよく分かります。同情した方が何人か、選に採られました。
ところで、この句の季題「薄氷」は力が弱く、一句の中に強い言葉があると、その陰に隠れてしまいます。掲句で言うと「孤独」という言葉です。「薄氷」が季題として働かず、添え物の様に、影が薄くなっています。まるで借りてきた猫のようです。では、どうすれば良いでしょうか。
それには、「孤独」という強い言葉を隠すことです。孤独感がにじみ出るように、他の言葉の裏に隠すのです。たとえばこうです。
春寒や母の手術を待つ時間
時間という言葉の裏に「孤独」という言葉を隠し、その思いがにじみ出るように、「薄氷」という弱い季題に代えて「春寒」を置きます。如何でしょう。こうすることにより「春寒」という季題が働いてくれます。
手術は無事終わり、やがて退院の時期になりました。その時の作者の句、
退院の決まりし母や下萌ゆる
「下萌」という季題が良く働いています。良かったですね。
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