先日のある句会で、難しい兼題が出ました。たまたま颱風の襲来で休会になり、後日選をさせて頂きましたが、皆さん、この兼題には閉口されたようです。その兼題とは溝萩です。
ミソハギ科の多年草で、田の畦や水辺に自生している高さ1メートルくらいになる直立した植物。仏花として用いる事が多く、群生している光景は晩夏初秋の風物詩、と物の本に有ります。千屈菜(みそはぎ)、聖霊花(しょうりょうばな)、鼠尾草(みそはぎ)という傍題も有ります。
古い季題で、江戸時代の作家にこのような句があります。
鼠尾草や身にかからざる露もなし 暁台
みそ萩や水につければ風の吹く 一茶
さて、今回の句会での溝萩は如何だったでしょう。
溝萩や昔を偲ぶ水車小屋
溝萩や戸毎に繋る石の橋
溝萩の水門あくる老爺かな
溝萩や暗渠はいつも水の音
小流れを隠し溝萩群れ咲けり
溝萩と同じく湿地や水辺に咲く花に、溝蕎麦(みぞそば)というタデ科の植物があります。牛の額のような形の葉と金平糖のようなピンクの花が印象的ですが、溝萩よりもっと流れに近い植物です。水路の脇に、水漬いた状態で生えています。溝萩と同じく、秋の季題ですが、上記の句会の句に再度目を通してみて下さい。田の畦に生い茂る溝萩でしょうか、水路の脇に水漬いて茂っている溝蕎麦でしょうか。私には、溝蕎麦のように思えるのですが。季題の混同が有るようです。
溝萩という季題は仏花である事がポイントです。広辞苑にも「盂蘭盆会に仏前に供える」と有ります。この抹香臭さが、この季題の鍵だと思います。
溝萩や風通しよき寺の庫裡
寺と庫裡とは言葉が重なりますので、庫裡だけで良いのですが、この句、庫裡の水桶に、本堂にお供えする溝萩が活けてあるというのです。花の背の高さも感じられます。すっくと立つ花の姿がいかにも仏花らしい佇まいです。抹香の匂いもします。
溝萩や檀家の減りし峡の寺 伸一路
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