本日の六甲道の俳句入門(A)・(B)講座とも、「虫」という兼題を差し上げました。この季題は古代から詠み継がれて来た古いもので、よほど気を付けないと類句・類想句になってしまいます。古い季題を新しい環境の中で如何に詠むか、ここの工夫が大切です。今回発表された句の中から、いくつか、推敲のヒントになるものを挙げてみましょう。
①何事もなきかに晴れて虫の秋
季題は「虫の秋」。秋の虫では有りません。虫たちが秋を謳歌しているのです。「水の秋」と同様、詩の言葉です。この句は、今回の広島をはじめとする各地の水害・土砂災害の被災地を心に置いた句だと思います。災害が収まった後の秋晴れと、被災地に鳴いている虫の声。まるで何事も無かったような虫の声です。虫に感情は有りませんので、たとえどんな被害が出ようが、淡々と鳴き続けるます。その声に哀れを催す作者。問題は、「なきかに」と現在形で叙しているところに有ります。災害が発生したのは、この時点では過去の事。ならば過去の事として叙さねばなりません。「かに」は「ごとく」と同じです。
例) 何事もなかりしごとく虫の秋
晴という言葉が消えてしまいましたが、虫が鳴いているのですから晴れているのです。雨が降ると虫は鳴きませんから。
②万葉の歌碑に寄り添ふ虫の声
講座の中で、この句は短歌の上の句で、切れが無いと申しました。
万葉の歌碑に寄り添ふ虫の声 それにつけても秋は悲しき
では、どうすれば俳句らしい形に直せるか。「添ふ」を「添ひ」と一字だけ直してみたらどうでしょう。
切れませんか。「それにつけても秋は悲しき」の部分が、すっと消えたでしょう。これで俳句の形になりました。
③虫の声一雨ごとの季の移り
一雨ごとに季節が深まって行く思いを表現されたのでしょう。先ず「一雨ごとの」という表現について考えてみましょう。「ごとの」で時間の経過が表現できているのですが、どうものんびりした感が有ります。虫の声との関係もはっきりしません。むしろ、一雨に季節が移った、その証拠に虫の声が聞えるじゃないか、と簡潔に詠った方が俳句らしい感じがします。季と書いて「とき」と読ませましょう。
例)一雨に季の移りて虫の声
虫という季題には「儚い・悲しい・心配だ」という思いが有ります。この思いをうまく活用して、「儚い・悲しい・心配だ」と詠まずに、その代わりに「虫の声」という季題をそっと添えておくのです。これだけで、読者にその思いが伝わります。
被災せし友の安否や虫の声 伸一路
0 件のコメント:
コメントを投稿