2015年3月15日日曜日

助動詞の「し」

御存知のように助動詞の「し」は助動詞「き」の連体形で、「直接に自分が経験したことや確実に過去にあったこととして回想して述べる時に多く用いられる」(日栄社版「文語文法」)と有ります。

そして、「京より下りし時に、みな人、子供なかりき」(土佐日記)という例文に対して、

「京都から(土佐に)下った時には、だれもみな、子供がなかった」という役が付けてあります。

下りし時は、下った時。子供なかりきは、子供がなかった。いずれも過去のことを思い出して(回想して)述べている文章です。ところで先日の句会で、次の句が出されました。

    下校の子引きゆく鴨を見てをりし

これはいつの事でしょう。最後の「し」は上に述べてある、助動詞「き」の連体形。つまり、過去の事になります。連体形ですから次に名詞(この場合は下校の子)が来ます。分かりやすく詠み直しますと、

    引きゆける鴨見てをりし下校の子

となり、帰って行く鴨を下校の子が見ていたのだったという、過去の事になります。しかしこの句の場合、作者の意図したところは、今現在目の前で見ている情景の描写ではないでしょうか。それなら、

    引きゆける鴨を見てをり下校の子

となります。元の形に戻しますと、

    下校の子引きゆく鴨をみてをれる 

となります。この他、助詞にも「し」があり、強調するときに使います。

    から衣着つつ慣れにあればはるばる来ぬる旅をぞ思ふ (伊勢物語)

この歌の「慣れにし」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で妻に懸る。「妻し」の「し」は強調の助詞の「し」。「旅をしぞ」の「し」も強調の助詞の「し」です。

大変区別が難しいのですが、安易な「し」の使い方は、文法的に矛盾を来たしてしまいますので、注意したいものです。

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