2015年5月10日日曜日

兼題について

ある句会で、とんでもない兼題が出された。それは「現の証拠(げんのしようこ)」だった。下痢止めに効果があるとされる植物で、夏5月の季題である。乾燥した現の証拠を煎じて呑めば、たちどころに効く事から、現の証拠という名前になったという。千回煎じても未だ苦いというところから千振(せんぶり)と呼ばれる植物が有り、これは胃腸薬として有名である。千振引く、という季語は秋10月の季題だ。

読者諸氏の中で、現の証拠の現物をご覧になった方がどの位居られるだろう。真に厄介な兼題である。句会の結果は、案の定悲惨なものであった。難解季題と言ってもよいであろう。先ずこの季題に季節感があるかどうか。現の証拠という植物と、5月という季節とが結びつくだろうか。結びつくとすれば、植物にかなり詳しい方だろう。庭で育てている、という方が有ったが、稀有のことだ。菖蒲や杜若の花を見て夏の到来を実感する人は多いが、現の証拠ではどうだろう。それ程、生活実感と掛け離れた存在なのである。

一般的に、兼題を出す場合はその句会の会員の実力を知った上でないと、適切な題は決められない。理想的には、会員の平均的な実力より少し高めに設定する方が勉強になるというのが私の実感だ。「最近、先生の兼題が難しくなって、付いて行くのが大変だ」という話はよく耳にする。それでも会員諸氏は付いて来られている。兼題が難しすぎて退会される方があれば、それは兼題の出し方に問題があるのである。兼題の選択を諸氏の実力の伸長に合わせれば、フーフー言いながらでも付いて来られる。少しずつレベルを上げて行けばよいのである。自然に詠めるようになるはずだ。

意地悪で出題することは、有ってはならない。指導者の力に合わせてもいけない。会員が詠めない様な兼題を出しても、何の手柄にもならない。かと言って、会の平均的な実力より易しい兼題では、逆に失礼になる。この辺の兼ね合いが難しいのだ。

今では使われていない季題ばかりを出して勉強している句会もある。例えば「車組む」という題は、雪が解けて農小屋の荷物が出せるようになった頃、分解して仕舞ってあった大八車を納屋から出してきて組み立てること。雪解けの頃の季節感が出ている。これはあくまでも勉強のためのもの。楽しく、ちょっぴり難しく、というのが兼題の出し方だろうか。会員諸氏のお顔を思い浮かべながら、これはちょっと難しいかな、と思い巡らすのも楽しいことである。

         獣道げんのしようこも踏まれあり     伸一路

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