2015年9月1日火曜日

本当の感動

九月号の雑詠欄の巻頭を飾った4句の中に、

       老いてなほ薔薇の彩に弾むもの

というのが有った。今年90歳になられた芳叢さんの句である。雑詠の選をする際に常に心することは、その句が本当の感動から詠まれたものかどうか、という事である。特に、練達の方の句を選する場合、心を鎮めてその句が語るのを聴く。本当の感動を感ずれば採る。然らざれば遠慮する。

上手に詠まれている句は特に警戒する。その中に本当の感動が有るかどうか、これを見極めるのが選者という修行者の仕事である。口先だけで感動を装った句も有る。これは直ぐ分かる。難しいのは、それぞれの句の感動の深さを見極めることだ。雑詠欄の席次は、この感動の深さで決まる。

掲句には、何の衒いも作意も感じられない。90歳になられた方の、薔薇の花に対面された時の感動が、そのまま素直に表現されている。薔薇の彩に心が弾む、とは同行の方や読者と感動を共感したいと、心が打ち震えることである。

美しいものを自分一人で見ることほど、つまらないものはない。その感動を誰かに伝えて初めて、心が満足する。芳叢さんの句は、そのことを私たちに語ってくれる。老いてなお、と詠まれた心を、そのメッセージを、私たちは受け止めなければならないのである。

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