陰暦10月の異称を小春と言います。これを季題として、私達俳人は陽暦の11月の、ぽかぽかと暖かい日を詠みます。春の日と何が違うかと良く聞かれますが、一番違うのは空気の湿り具合です。春の日はぽかぽかとして暖かく、空気は潤いを含んで滑らかです。一方、小春日も同じようにぽかぽかと暖かいのですが、空気が乾いて堅く、深呼吸すると鼻の奥が、つんと痛くなります。春の日はエネルギーに富み、様々な命を育みますが、小春は、死の季節である冬に向かう悲しくて淋しい季節の、奇跡のように暖かい一日です。
噛み合はぬ思ひ出話縁小春
ある句会で投じられた句ですが、「噛み合はぬ」という表現と小春とが合うかどうか。噛み合わないと、もう後がないのです。
小春日や計画の旅延長す
同じ句会で出された句ですが、旅の計画を延長したと詠んでいます。小春日の次に来るのは死の季節であり、延長は出来ないのです。
私は、かつて血液の癌で神戸の中央市民病院に3ヶ月入院し、11月末に寛解を得て退院しました。家内の車でポートアイランドから三宮へ向かう神戸大橋を渡りましたが、神戸港に広がる小春の日を浴びながら、生きて退院できた喜びを実感しました。小春日和は、生き永らえている幸せをしみじみ感じる日和なのです。小春とは立冬を過ぎてからの春のように暖かい晴れた日のこと、という程度の理解では、小春の有難さは読者に伝わりません。
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