2021年11月18日木曜日

大綿を詠む

 大綿という季題が有ります。ホトトギス新歳時記では大綿の傍題に綿虫があり、角川合本歳時記では綿虫の傍題に大綿が有ります。ということはどちらを使っても問題なしということです。角川では更に、雪蛍、雪婆(ゆきばんば)という傍題も載っています。

大綿とは、植物の枝などに付く小さな昆虫の、アリマキ(アブラムシ)の仲間です。一般的なアリマキは翅が有りませんが、この種類は小さな翅が有り、綿のような分泌物を体に付けて、初冬のどんよりとした曇った風の無い日に、弱々しくふわふわと飛びます。その様子が綿屑のように見えるので、大綿とか綿虫と呼びます。人の背丈ほどの高さにまで浮き上がって、すとんと落ちることもあります。

      大綿に落ちる重さのありにけり  伸一路 (句集「飛翔」所載)

大綿の体自体が青味を帯びているので、淡い青い光が飛んでいる様にも見えます。

      大綿の己が光の中を飛ぶ     伸一路 (同上)

都会でも、初冬の頃に公園などで見られますが、北国では雪が降り出す頃に飛び始めます。そのため雪虫とも呼んでいます。私も、札幌勤務の頃、空がどんより曇って今にも雪が降り出しそうな時に綿虫が飛び交うのを見ました。暖かい地方の俳人が大綿を詠む時は、私の句のように、弱々しさとか命の儚さに関心が行きがちですが、北国の俳人は、やがて始まる雪の中の厳しい生活を思って詠むでしょう。

大綿を季題として詠む場合は、こんな北国の暮しも考えてみると良いと思います。    

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